植物の生育がよくなると人気のスリット鉢。
「ふつうの鉢とどう違うの?」という方のために、スリット鉢の使い方や、使ってみてわかった「本当の」メリット・デメリットについてご説明します。
花壇や寄せ植えでも使える、ちょっと意外なスリット鉢の使い方もご紹介しますので、ぜひぜひ、最後までおつき合いください!
スリット鉢のいちばんのメリット
スリット鉢の最大のメリットは、ズバリ「根張り」がよいことです!
……あまりピンとこないかもしれませんね(笑)。
ふだんのガーデニングでは、花や葉っぱを見て元気さを判断しがちですが、植物の健康は、そのまま「根」の健康にあるのです。
「そういわれても根の重要さがイマイチわからない……」という方のために、根の役割りについて、簡単にご説明しますね。
植物を育てるうえでとても大切なことなので、1~2分、がんばってついてきてください!
植物にとって根張りが重要な理由
ここでは、「土に根を張って育つ植物」についてお話しします。
根の役割は、大きくわけて4つあります。
・水や養分を吸い上げる
・水や養分を貯蔵する
・酸素を吸って二酸化炭素を出す
・植物の地上部を支える
水や養分を吸うのは根の先端や根毛です。
根の呼吸量も先端へいくほど大きくなります。
根の先端以外の部分は、水や養分を送るパイプや、地上部を支える働きをします。
そのため、鉢の中で根がしっかり張っているように見えても、先端がいたんでしまうと、水も養分も吸収できず、呼吸もできずに地上部が枯れてしまうのです。
では、どうして根の先端がいたんでしまうのでしょうか?
ふつうの鉢の中でおこりやすい「根詰まり」
根の先端がいたむ原因はいろいろ考えられますが、鉢での栽培で多いのは「根詰まり」です。
通常、根は酸素が多い鉢の壁側へ向かって伸びていきます。
壁にあたった根は、そのまま壁の内側に沿ってぐるぐるとまわり続けます。
その結果、鉢の壁側だけで根がびっしりと混み合い、鉢の真ん中はスカスカ、という状態に。
Photo by kii watanabe
水やりをしても、鉢の壁側はギュウギュウでうまく吸えず、鉢の真ん中には根がないので、水が乾かずビショビショのまま。
植え替えが少なくて済むようにと、大きめの鉢に植えたりすると、さらにこの傾向は強くなり、結局、すぐに植え替えが必要な「根詰まり」となるのです。
スリット鉢でバランスよく根が張るカラクリ
そこで登場したのが、このスリット鉢です。
スリット鉢には、底面から側面にかけてスリット(切れこみ)が入っています。
Photo by kii watanabe
このスリットは、根に「光」を感知させるためのもの。
「光を感じると伸長を止める」という根の性質を利用して、壁側に伸びてきた根の生長を止めるしくみです。
鉢の壁側で根の成長を止めた植物は、かわりに鉢の真ん中でたくさんの枝根を伸ばします。
ふつうの鉢では、真ん中は過湿ぎみなので根が生長しにくいのですが、スリット鉢は、このスリットのおかげで鉢内全体が乾きやすくなっています。
その結果、鉢の中のどこででも、バランスよく根を伸ばすことができるのです。
さらに、写真のような形状(八角形・意味ありげな縦ライン)のスリット鉢であれば、上のほうで壁にあたった根は、横へ伸びることなく、まっすぐ下へ誘導されます。
底まできたら光を感知して生長を止めることになり、万が一、生長が止まらなくても、底面にいくつかある突起によって、底で根がぐるぐる回るサークリングを防ぎます。
Photo by kii watanabe
スリット鉢は、素材も大きさもいろんな種類が出ていますが、スリット鉢の効果を最大限に利用するなら、この形状がおすすめですよ!
デザイン性は、少~し低めですが……(笑)。
スリット鉢の使い方
それでは、スリット鉢を使うときのポイントを5つ、ご説明します。
1.乾きやすく倒れやすいことを考慮して植物を選ぶ
スリット鉢ではスリットの効果で土が乾きやすくなっています。多湿を好む植物を植えるときは、荒木田土など水もちのよい用土を使うなど工夫しましょう。また、スリット鉢はかなり軽いものが多いので、地上部が重くなる植物はさけるのが無難です。
2.鉢底石は敷かない
鉢底石は鉢底で水が滞留して腐るのを防ぐのが目的。スリット鉢はスリットのおかげで水はけがよく乾きやすいので必要ありません。入れてもそのせいで植物が枯れることはありませんが、サークリングを防ぐ突起をふさぐことになるので、スリット鉢の効果が半減しちゃいますよ。
3.植え付けは湿らせた用土を使う
植えつけ時に乾いた用土を使うと、スリットから用土がこぼれやすいです。少し湿り気のある用土をスリットの上あたりまで入れてぎゅっと押しておけば、そのあとはこぼれにくくなりますよ。
4.植え付け後は土の上に置かない
これはスリット鉢以外の鉢にもいえることですが、花壇など土の上に直接置くと、鉢の底まで伸びた根が「土の続き」と判断して、そのまま鉢の下にある土の中へ伸びていってしまいます。スリット鉢はふつうの鉢にくらべて根っこが出る箇所が多いので、ちょっとめんどうなことになりますよ(経験アリ)。
Photo by kii watanabe
5.鉢カバーを使うなら二回り大きめを
スリット鉢はデザイン性の低いものが多いので、おしゃれな鉢カバーを使いたくなりますが、光をさえぎるとスリットの効果が活かされません。どうしても使う場合は、大きめのものを選び、少しでも光が入るようにしましょう。これについては、あとの【検証2】でお伝えしますね。
以上の5点に注意すれば、あとはふつうのプラ鉢とほぼ同じです。
スリット鉢は、慣れると使いやすいですよ!
それでは次に、スリット鉢を使った実例をご紹介します。
【検証1】ふつうに1か月ほど使ってみた
こちらは、植えつけて1か月ほどのフクシア「エンジェルスイヤリング」。
Photo by kii watanabe
根っこは出ていませんが、まだ鉢の中で伸びていないだけかもしれませんね。
Photo by kii watanabe
生育は順調で、地上部がよく育っているので、ちょっと倒れやすくなりました。
検証結果:土が乾きやすく鉢も軽い、というのは本当です。気をつけなければいけないポイントですね。
【検証2】禁断の鉢カバーに1年間入れてみた
スリット部分の光をさえぎるため、推奨されていない鉢カバーですが。
ユーフォルビアの地上部が大きくなり、倒れやすくなったので、プラ鉢にそのままストンと入れてしまいました。
Photo by kii watanabe
1年ほど入れたままにしていましたが、根っこは……。
Photo by kii watanabe
出そうで出ていませんね(笑)。
植え替えのため、スリットポットから出してみましたが、サークリングもしていません。
Photo by kii watanabe
思ったより根は張っていませんが、花はほぼ1年中咲いていたので、生育には問題はないようです。
検証結果:鉢カバーをしても、多少、光が入っていれば、根の伸長は止められるようです。
【検証3】スリット入りビニールポットの場合
最近は、苗のビニールポットにもスリット入りが増えました。
Photo by kii watanabe
Photo by kii watanabe
こちらは、スリット入りのビニールポットに入っていた苗。
Photo by kii watanabe
根は、まわっているように見えますね……。
さすがに、この鉢の大きさではまわりやすいのでしょうか。
ただ、これだけまわっているにもかかわらず、スリット部分には根がありませんね。
通常なら、ここまでまわると、スリットから出てきそうなところですが。
根が光りを避ける、というのは、本当のようです。
こちらもスリット入りのビニールポット苗。
Photo by kii watanabe
こちらは、真ん中からも根が下りてきているので、スリットの効果が確認できますね。
お次は、スリット入りのビニールポットに種をまいたときの様子。
Photo by kii watanabe
同じ日に種をまいた、ふつうのビニールポットと並べてみると……。
Photo by kii watanabe
ふつうのビニールポット(右はし)は、根が外に出てきてますね。
真ん中のスリットポットにも、鉢底に穴がありますが、こちらは根が出ていません。
スリットの効果で、鉢全体に根が伸びるため、底面付近の根が少ないようです。
検証結果:ビニールポット(3号程度)の大きさでもスリットの効果はアリ。ただし、長く放置すると、この大きさではやはり根がびっしりまわってしまう。
【検証4】インナーポットとして寄せ植えに使ってみた
これは、ちょっと邪道な使い方なので、単なる体験談として読んでいただければと思います。
以前、花壇の管理の仕事をしていたとき、たくさん植えた中の1つだけが枯れてしまう事態に悩んでいました。
わりと詰めて植えているので、1つ抜くと、ほかの植物の根も引っぱってしまうんですよね。
そこで考えたのが、スリット鉢をそのまま花壇に植える方法です。
土の中に鉢ごと埋めるので、もちろん根を止める効果はありません。
土の中で、スリットからビロビロと根を伸ばして生長してしまいます。
ただし、スリット鉢なしで直に植えているときのことを思えば、1つだけ植え替える、という作業がとても楽になりました。
抜きたいスリット鉢をゆさゆさゆすり、土に伸びている根っこごと、そ~っと抜くだけ。
株元の根をくずさずにスポンと抜けて、ほかの植物への影響も最低限ですみます。
しかも、同じ場所に新しい植物を植えたいときは、新しい植物のスリット鉢をそこに埋めるだけ。
見栄えがするまでスリット鉢で育ててから花壇に植える、なんてこともできるようになり、花壇管理がずいぶん楽になりました。
先日おこなった寄せ植えでも、久しぶりにスリット鉢ごと植えてみました。
こちら、アロマティカスというハーブ。
Photo by kii watanabe
ゴールデンセージと一緒に植えるため、鉢の中で根がケンカしないよう、アロマティカスにはスリット鉢に入ってもらいました。
スリット鉢が表面から見えないように、かなり浅植えにします。
Photo by kii watanabe
植えつけると、ポットが見えちゃってますね~。
Photo by kii watanabe
さらに土をたして、完成です!
Photo by kii watanabe
生育が悪ければ、すぐにスリット鉢からはずそうと思いましたが。
Photo by kii watanabe
両方とも、順調です!
検証結果:正規の使い方ではありませんが、大鉢の寄せ植えなどではおすすめです(コッソリ)。
《 追記 2022年8月16日 》
寄せ植えから2か月半がたち、害虫被害が出たので植え替えることにしました。
スリット鉢を掘り出してみると……。
Photo by kii watanabe
やはり、根っこが外に出ていますね~。
Photo by kii watanabe
スリット鉢の中の根は、まっすぐ伸びてサークリングもしていませんね。優秀!
Photo by kii watanabe
2つのハーブは、それぞれ新しいスリット鉢に植え替えて、しばらく養生させることにしました。
結論!使ってみてわかった本当のメリット・デメリット
最後に、ちまたで紹介されているスリット鉢のメリット・デメリットの「うそ?ホント?」を、わたし目線で検証したいと思います!
■スリット鉢のメリット
1.水はけがいい
→ホント!スリット効果です
2.通気性がいい
→使う用土によると思いますが、おそらくスリット効果で空気は入りやすいと思います
3.根張りがよい
→ホント!今まで育てた植物はサークリングせずバランスよく根が生長しています
4.根腐れ・根詰まりしにくい
→ホント!わたしがスリット鉢で育てた中では一度もありません(ポット苗以外)
5.植え替え回数が減る
→ホント!全体に根がバランスよく広がり根詰まりしにくいので植え替え回数が減ります
6.鉢底石がいらない
→ホント!経済的に助かります(笑)
7.軽くて割れにくい
→ホント!いちばんうすいプラスチック製を何年も使っています。ただし使い方によっては歪むことも
8.安価
→種類によります。素焼きや高品質のものはかえって割高かも
■スリット鉢のデメリット
1.土が乾きやすい
→ホント!水もちのよい荒木田土などをベースにするなど工夫すれば問題ないと思います
2.虫が入りやすい
→1匹入られたらどの鉢も一緒です。ふつうの鉢は10匹入られるところをスリット鉢は100匹入られるなんてことはありません
3.スリットから土がこぼれる
→植えつけ時だけこぼれやすいです。先ほどご紹介したように土を湿らせれば大丈夫。栽培途中でボロボロこぼれたことは今のところありません
4.軽いので転びやすい
→ホント!植物の重みや葉姿のバランスで倒れることも。風の強い日も要注意です
5.デザイン性が低く安っぽい
→おしゃれ度の高いスリット鉢もでてきています。ただし機能性を重視すると先ほど写真でご紹介したような感じが多いです
6.光をさえぎるので鉢カバーが使えない
→【検証2】でお伝えしたとおり、多少光が入っていればスリットの効果はあるようです。二回りほど大きな鉢カバーで試してみてはいかがでしょうか
7.根が伸びるので土の上に乗せられない
→ホント!【検証4】でお伝えしたとおり土を感じると容赦なく根が伸びます。レンガやフラワースタンドなど、土のない場所に置きましょう
8.汚れやすく汚れがおちにくい
→ホント!他のプラ鉢や素焼き鉢でもおこりますが、水やりするうちに水道水のカルキのようなものがつきます。「汚れがおちにくい」は動画で生産者の方がおっしゃっていました
◆【イチジク】園芸農家の僕がスリット鉢を使わない理由をお話しします。/園芸農家イシヅキちゃんねる
※ YouTubeです。音にご注意ください
スリット鉢のデメリットは、工夫しだいでどうにかなるものがほとんどです。
「ちゃんと水やりしてるのにいつも植物が枯れてしまう……」という方は、ぜひ一度、スリット鉢を試してみてくださいね☆
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おわりに
今回は、スリット鉢の使い方とあわせて、根の重要性についてもお伝えしました。
根っこは植物にとって命そのものです。
こむずかしい話になりましたが、ここまで読んでくださった方は、なんとな~く理解してくださったのではないかと期待しております。
育てている植物の元気がないとき、無意識に鉢底穴から根っこが出ていないか、などを確認するようになっていれば、「植物の健康=根の健康」を理解してくださってる証拠だと思います(笑)。
長文を最後まで読んでくださって、ありがとうございました☆
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◆三橋理恵子の基本からよーくわかるガーデニングワーク [ 三橋理恵子 ](楽天ブックス)
◆『用土と肥料の選び方・使い方』(加藤哲郎 著/農文協 1995年)
◆根の滲出物とその機能を測る/森林総合研究所関西支所
◆【イチジク】園芸農家の僕がスリット鉢を使わない理由をお話しします。/園芸農家イシヅキちゃんねる(YouTube)